第一回「虫刺され」
子供さんの虫刺されは大人が思っているより激しい症状になることがあります。
蚊でもダニでもノミでもたまご大くらいの赤い斑点が腕やからだにたくさん現れます。
ひどい時は腕全体、脚全体がパンパンに腫れあがって熱くなったりしますし、手を刺されると指が曲がらなくなったりします。はやく治すコツは処方された塗り薬を出来るだけ、たくさん塗ることです。
一度、塗って、数分してかゆくなったら、また塗ります。しばらくして痒くなってきたら、もう一度、塗ります。
ようするに短い時間に何度も何度も塗り重ねると、かゆみがとまってきます。
第二回「あせも」
大人のあせもはそうでもないですが、赤ちゃんのあせもは時に治りにくくなります。
汗で悪くなりますから冷房をかけて出来るだけ汗をかかせないことが重要です。
抱っこやおんぶをする時、肌着がおしりや背中に密着して汗びっしょりだと、どんなに薬を塗っても治りませんので、風通しのよい服装、抱き方を工夫しましょう。
炎天下を長い時間、抱っこして移動したり、うんちの回数が多くておむつかぶれを併発するとますます治りにくくなります。
第三回「水虫」
やはり夏になると当然のように増えてきます。ただ見ただけでは診断が難しい皮膚病です。
実は歩きすぎで、皮膚が汗でふやけて、皮が剥けているだけという水虫の濡れ衣を着せられた湿疹の場合も多いので、顕微鏡検査をする必要が多いにあります。
それにしても水虫の薬は刺激が強くて塗ると大抵の場合、皮膚が少しひりひりしますから、傷がある場合にはよほど注意して塗らないとかぶれます。
第四回「みずいぼ」
特に夏になると多くなります。ほっておいてもいつかは消えるものですが、アメリカ等でも免疫の弱ったお子さんの水いぼは取ったほうが良いというのが主流のようです。
最近は麻酔テープが条件付きで保険適応になったので除去する人が増えました。
最初、2,3個だったのに小児科等でほっておくように指示され、本当にほっておいたら、百個に増えたという事例は多いです。
テープを貼る側も取る側も重労働ですが、一番大変なのは取られる子供さんのほうだと思います。
ただ、水いぼも細菌感染があって赤くなっている場合は麻酔テープを貼っても効果が出ませんから、抗生剤の軟膏を塗って赤みをとってから処置します。
またあまりに小さいのを無理に取ろうとするお母さんがいますが、ほとんど目に見えないものは取る必要がありません。除去したあとは、とびひにならないように頑張って薬を塗ってください。
第五回「アトピー性皮膚炎」①
それにしても治療を開始してすぐに肌がきれいになるアトピー性皮膚炎の方となかなかよくならない方がいらしゃいますが、やはり薬の効果が出る方は十分な量の薬を必要な回数塗っている方であり、そういう方はなかなか再発もしません。
治りにくい方はもともと重症であることもありますが、やはり塗る量が十分でなく、なかなか湿疹が消えるまで塗り薬を続けられない方が多いです。
時間があれば診察中にどのくらいの量を塗ればよいのか分かってもらうため実際に処置で体に軟膏を塗らさせてもらうのですが、なかなかそれを家で続けてもらえません。
何年も治らなかったアトピーの方で別の病気になって毎日通院するようになり、毎日処置で看護師が薬を塗っていたらきれいに湿疹が治ってしまったことはよくあります。
あとはストレスを感じるといけないと分かっていながら昼夜、絶え間なく体中を引っ掻いてしまう人が多々おられ、そういう方にどのような心理 的、身体的治療を施すか難しい問題だと思われます。
第六回「冬の皮膚病」
寒くなりますと湿度が下がり、空気が乾燥してきます。部屋にいても暖房のせいで室内の空気が乾燥してきて、皮膚はその水分を失いやすくなります。手指の皮膚もカサカサになり、徐々に悪化してきて、かゆくなったり、真っ赤になったりします。手の湿疹はもともと乾燥しやすいアトピー体質をお持ちのかたが重症化しやすいですが、洗剤や水の使い過ぎ、ダンボールや紙幣などの紙の繊維成分で悪くなります。また睡眠不足でも悪化するのでゆっくり休養を取るのが大事です。治療として炎症を防ぐ外用剤だけ塗るかたもいますが、それだけでは駄目で、きちんと保湿剤を塗った上に作用の強い湿疹の薬を塗ります。ある程度良くなっても治療を止めないで保湿剤だけは塗り続けます。そうすることで自分の皮膚に本来、備わっている保湿成分がよみがえってきて治ります。
全体的に朝と晩が冷え、昼が部屋の中で温かいとなると、その寒暖の差で自律神経の調子が狂い、皮膚に痒みの生じることがあります。暖房の風があたったりして、特に顔を夜中に掻いてしまい、頬が真っ赤に腫れてくる人もいます。そういう方は手の甲にもザラザラの湿疹が出ているので顔と手を同時に治さなければ治りません。小さいお子さんですと赤い点々やゆび全体が赤く腫れてきたりした場合、しもやけにかかっていることが多いので、保護材を塗ったガーゼを貼る必要が出てきたりします。小学校高学年や、大人がしもやけになるとビタミン剤などの内服薬を飲んだほうが早く治る可能性があります。
第七回「肌の乾燥性湿疹」
お年を召された方に多いかもしれませんが、冬になれば当然、皮膚が乾燥してきて刺激に弱くなり、痒くなります。温風機や電気毛布を使ったり、長時間、入浴したりすると悪化してきます。かゆみのせいで、お風呂の中で思い切り太ももなどを引っ掻いて血だらけになっているご老人がおられます。気持ちはわかりますが、出来るだけ掻かないで強めの塗り薬を塗り、そのあと、保湿剤にするのが良いようです。
保湿剤にはいろいろありますが、有名なものにはヘパリン含有剤のクリームや尿素軟膏があります。慣れると非常に塗りやすいですが、あまりに乾燥が強い、粉をふいたようなカサカサ皮膚にいきなり塗ると刺激で赤くなったり、ぴりぴりしたりします。何でもかんでも塗ればいいというわけではありません。ワセリンは油状の軟膏でかなり広範な皮膚状態に使用できますが、べたべたが嫌だという方もおられます。ラノリンを含んだワセリン等をべたつきを我慢して塗って一晩たてば、ほどよく皮膚をバリアーしてくれているなという安心感を受けるかたが多いです。
とりあえず、かゆみが強いときはまずかゆみをそれ専用の薬でとめていただき、血が出ていたら傷薬を塗って、それからその時の皮膚の状態に一番あった保湿剤を長く塗っていただき(ただ塗るというのが一番、やっかいで面倒くさいことですが)、栄養をとりつつ、乾燥に留意しながら、十分にコントロールすることが重要です。
第八回「冬の乾燥肌」
冬は晴天が続くと皮膚も乾燥してきます。子供からお年寄りまで手や足のすねがガサガサになり、かゆみや痛みが出てきます。とくに外で遊んでいるお子さんのあかぎれのような手の甲に市販の尿素入りクリームや液体の保湿剤を塗ると、はげしい痛みに襲われることがあるので注意がいります。薬をきちんと塗って手袋で保護し、手を洗いすぎないことが大事です。
第九回「皮膚科的な花粉症」
花粉症でも涙や鼻水など一般的な症状だけでなく、鼻をかみすぎたり、あるいは皮膚に花粉が付着してかゆくなることがあります。耳鼻科的花粉症のようにやはりかゆみどめの薬を飲んで外用剤で治療する必要があります。
寝不足をしていると治りにくいので、なるべく早く寝るようにします。
第十回「にきび」
にきびを気にしすぎてあまりにこすったりいじったりすると化膿し、治りが悪くなることがあります。ごく軽く、優しく石鹸で顔の皮膚を洗い流します。一日三回だとカサカサになる人は二回ほどにします。洗顔時、にきび用の硫黄を含有した石鹸を使用すると乾燥がひどくなる人がいるので、むしろ不純物がないか、ピーリング剤含有の石鹸を使用したほうがいいようです。大事なのは皮膚の脂分を適度に調節することです。
なるべく規則正しい生活をし、おせんべいやコーヒーや甘いものを食べすぎない、ストレスを悪く取らないことも重要です。
女性の場合、プロゲステロン等ホルモンバランスの関係で体が火照ったり、だるくなったり、肌がカサカサになったりして、その結果、にきびが悪化することがあり、普通のにきび治療では治すのが難しい時があります。そういう場合に有効と言われている女性ホルモン合剤を使用するかどうかは患者さんの体質やホルモン調整剤による血栓、乳がんの発生危険性を考慮しなければなりませんが、皮膚科的にはあまり積極的に女性ホルモン剤を処方することは少ないようです。
ディフェリンゲルは1992年フランスで承認され、現在米国を含めて世界80カ国以上で使用されているにきび用外用剤です。今までのにきび治療用の殺菌外用剤とはまったく異なるタイプのにきび治療剤で炎症性病変を治すだけでなく毛穴の詰まりを取り除くことで、今まで治りにくかった面疱という皮膚の奥に隠れている白いにきびも治療可能となりました。
ただし使用例が多くなるにつれて日本人女性の場合、比較的容易に顔の塗った部分が乾燥し、赤くなるので使用を止めてしまう例が多く見受けられるようになってきました。
やはり使用法が重要で使用二週後くらいより肌がカサカサになったり赤くなったりしてくるので、必ず夜一回この薬を顔全体に塗った後、抗生物質含有クリームを保湿もかねて塗ります。そして赤くなってきたら塗る量を減らします。最初ピーナッツの大きさほど塗っていて赤くなってきたら半分に減らし、それでも赤みが取れない場合は米粒くらいに減らし、それでも駄目ならゴマ粒位にします。塗り方としてはアトピー性皮膚炎を治す時と同じくらいの慎重さを要します。塗り続けている間、しばらく顔がほの赤い感じになっているのが非常に有効な塗り方です。
第十一回「アトピー性皮膚炎」②
内科的な病気と皮膚科的な病気には薬の使用法で大きな違いがあります。前者には錠剤にせよカプセルにせよ何らかの飲み薬を水とともに服用すればとりあえず効果を得られるという簡便さがありますが、後者ではそうはいきません。患者さんは自分の力でチューブ、もしくは容器のふたを開け、指で薬をぬぐって、患部に塗りたくる必要があるのです。塗り心地の良い薬ばかりでなく(本当に乾燥が激しい場合、クリーム剤は刺激があって塗れません)、時にべたべたした薬は下着を汚すし、眠い時や忙しい時などは薬を体に塗るという作業は普通の人が考えるより非常に困難な作業に違いありません。
したがって本当にかゆみの激しい、非常事態にのみ強力な薬を使用し、かゆみがとれたら湿疹がまだ残っているのにやめてしまうという大多数のアトピーの患者さんの悪い習慣は無理ないことかもしれません。そこいら辺りにアトピー性皮膚炎が治りにくい原因があるようです。
薬の塗り方が悪いといってやたらに患者さんをなじる先生もいますが、患者さんが薬を理想的に塗らないのには様々な理由があるはずです。そもそも患者さんとその医者の間に確実な信頼関係があるのかどうか、きずなが出来ないうちにいきなり薬を出されても塗るほうの患者さんだって躊躇してしまうのはしかたがないことでしょう。
なにやらあまり説明もされずにステロイドなる薬をだされたが、これは確か皮膚をどのようにしてか変えてしまう危険な薬ではなかったかなどと近年のマスコミの風潮もあり、患者さんが恐怖を覚えるのはしかたないことかもしれません。まずは双方が薬に対する認識を共有する必要があります。
逆にまったく恐怖を覚えず、副作用のことも理解せず、べたべたと制限なく塗りたくる人のほうがステロイド依存になりやすいので注意が必要です。そういう方の中には薬屋さんで売っているストロングなステロイド薬を勝手に購入して何カ月も塗り続けたりするつわものもいます。マスコミの注意喚起は本来、そういう人々に向けられる類のものだったのでしょう。